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【新春特別企画:展望2021】コロナ危機対応と世論

January 8, 2021

コロナ危機対応については、新型コロナウイルス感染症対策分科会の場をはじめとする各所で、様々な議論がなされてきた。当初は医学や公衆衛生の専門家が中心だったが、対応が安全確保に偏りすぎだという批判を受け、経済の専門家も加わるようになった。一連の議論の一つの軸となっているのは、「安全・健康」と「経済」のトレードオフ(二律背反)である。もちろん、たとえば安全を徹底することは経済活動の不確実性を取り除くことにもつながるため、両者の関係は単純なトレードオフではない。

それぞれのコロナ対策(あるいはその不実施)がどのように安全と経済に影響を与えるかについて、専門家が科学的な解明を進めることは非常に重要である。他方、日本のような民主主義国家において、安全と経済のバランスをどのレベルで求めるかは、究極的には国民の選択となる。日本政府首脳もそこは当然認識しており、専門家たちの警告になかなか耳を傾けなかった菅首相が、GoToキャンペーン停止や緊急事態宣言発令に舵を切ったのは、各種世論調査で内閣支持率が大幅に下がったことが主因だと報じられている。

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それでは日本をはじめとする各国の有権者は、コロナ危機対応をどう評価してきたのだろうか。すでに多くの世論調査が各国で出揃いはじめているが、ほとんどの国において、「安全・健康」と「経済」との関係においては、有権者の多くが「安全・健康」を極端に重視するという結果が出ている。中でも日本は、米国の世論調査会社YouGovが行った調査によればコロナ感染症への恐怖心が他国に比べ特に強いため(20211月時点で調査対象全29カ国中1位)、他国よりさらに「安全志向」が強い可能性がある。

また、欧米の研究者たちが主要民主主義国家を対象に行った研究によれば、感染者数が増加すると政府首脳の支持率は敏感に反応して下がるが、経済活動の活性化への支持率の反応は鈍い。ロックダウンなどより厳格な対応措置の実施は、政権首脳の支持率上昇につながる。世論だけでなく実際の投票行動においても、ロックダウンが行われた地域では、その他の地域に比べて現職の得票率が有意かつ大幅に上昇し、投票率も大幅に上昇するといった研究結果も出ている。

これらの世論の動きと関連するのが、オハイオ州立大学(現在)のジョン・ミュラー教授が半世紀前に指摘した「旗の下への結集効果」である。これは国難的な危機が生じた際、国民の間に連帯して危機を乗り越えようという一体感が生じ、政権への支持率が高まる現象を指す。「旗の下への結集効果」は今回のコロナ危機でも多くの国で観察された。コロナ危機直後に政権支持率は大半の国で大きく上昇し、また政府への信頼度も大きく上昇した。

「旗の下への結集効果」が生じるためには国民の間で危機感の共有が必要となるため、危機を強調し、より厳格な対応措置を発動する政治リーダーがこの効果の恩恵を受けやすい。実際、コロナ危機後に政権支持率を大幅に伸ばした国の大半は、感染者数や死者数が少なかった国ではなく、危機を強調し強烈な措置を実施したリーダーが率いる国である。

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こうしたコロナ危機後の世論動向につき、日本はどう向き合うべきだろうか。

日本のコロナ危機後の世論動向は一見不可解である。日本は世界で最も高齢化が進んでいる国であるが(欧州の中でも特に深刻な打撃を受けているイタリアが世界2位)、コロナ感染症による人口当たりの死者数や感染者数は、世界的には非常に低いからだ。近隣諸国と比べても大差はない。他方、オックスフォード大学が作成したコロナ危機対応策の厳格度指数においては、日本はほぼ一貫してOECD諸国の間で最も低い厳格度、つまり最も緩い規制措置しか講じていない。こうした日本を成功例として持ち上げた海外メディアも複数ある。

しかしコロナ危機後の日本政府に対する世論は世界的に見て非常に厳しい。たとえば20202月〜7月の間の35カ国の世論調査において、日本はルーマニアに次ぎ二番目に大きく政権支持率が下がっている。米エデルマン社の調査でも、20201月〜5月の間、世界主要11カ国中、政府への信頼度が下がったのは日本だけである。

ただこれらの一見不可解な日本の世論動向は、先ほど概観した世論調査結果や研究結果を見ればそう不可解でもなくなる。世界で最も悲劇的な被害を受けた地域の一つの米ニューヨーク州のクオモ知事が87%という驚異的な支持を受けたように、支持率が特にプラスに反応するのは、死者数や感染者数の少なさではなく、「安全・健康」の重視と、それに向けた強い措置の発動なのである。しかし安倍前首相は、昨年2月末に実施した学校一斉休校要請以降は尻すぼみになり、危機を強調し強い措置を要請する小池都知事や吉村大阪府知事など地方リーダーに世論の支持は集まった。「旗の下の結集効果」の「旗」を知事らに奪われたのだ。後を継いだ菅首相はGoToに固執し、経済重視のスタンスにも見える。

もちろん民主主義国家だからといって、政府や政治リーダーは、世論の動向にただ従えば良いわけではない。世論の動向に従うだけの政治家は単なるポピュリストだ。コロナ対応策にしても、死者数が少ない日本では、ある程度の犠牲は覚悟しても、早めに規制措置を緩和して経済再活性化を優先させた方が良いという判断も十分にありえる。

ただ民主主義国家である以上、コロナ対応策のような重要な政策には、最終的には世論の支持を得なくてはならない。「安全志向」という世論の志向に反する政策を通そうとするのであれば特に、分科会メンバーをはじめとする専門家・実務家を存分に活用・尊重して国民が納得できるだけの根拠を提示し、さらに政治リーダーによる通常の数倍もの懇切丁寧な国民への語りかけが必要だ。しかし今のところ、この二つとも不足している印象を受ける。特に首相からの説明の少なさは顕著だ。また、危機を強調する裏でGoToという強力な措置を推進するなど、政治的な配慮ばかりが目立ち、信念や一貫性も欠けている印象も受ける。自らの志向(安全志向)を多少修正してまで、信念のない政策を支持しようと思う者はそう多くあるまい。

これからは、国民の受容というところまで丁寧に織り込んだコロナ危機対応策の提示を望みたい。

 

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